住岡梨奈

Best album

「住岡梨奈 2012-2019」

Official interview

INTERVIEW

今までの歩みを振り返って

――3月28日、8月のツアーファイナルをもっての活動休止を発表されました。決断の経緯や心境を伺いたいと思っています。まずは、この7年間の振り返りをしたいのですが、音楽活動は地元・北海道で始めていたんですよね?

高校生の頃から歌ってはいたんですけど、初めて弾き語りでライブをしたのは2009年で、大学生の頃でした。「ヴォーカルもギターも練習してるんだったら、一人でライブしてみれば?」とサークルの先輩から言ってもらったのがきっかけです。サークルごとお世話になっていたライブハウスが札幌にあるので、店長さんに「出させてください」とお願いして。その初めてのライブの日に、新人発掘担当の方に見つけてもらったんです。

――強運の持ち主ですね。

はい、完全にここまでほぼ運だったと思います(笑)。恵まれているなと。その後、コンヴェンションライヴが東京であって、それが何のためのライブかも分からないまま「とりあえず、東京でライブするんだ!」という気持ちでギターを背負って東京へ行きました。そのライブを今の事務所やレコード会社の方が観ていて声を掛けてくださり、そのまま面接になっていきました。まだ大学に通っていたので、卒業してから東京に出て来ることになり、2012年の6月にデビューしました。ギターを持って歌うようになってからプロとしてステージに立つまでのスピードが速くて、自分の中では土台が出来ていない状態でスタートした、という感覚がありました。

――デビューが決まった時の気持ちは覚えていますか?

「デビューがゴールじゃない」と周りの先輩方からずっと言われ続けていて、自分もその意識があったので、入り口としか思えてなかったですね。「ここから始まるんだ」と。だからCDが出た時も「あ、私の顔が……(写っている)」みたいな(笑)。憧れていたアーティストの方達にお会い出来たり、同じイベントに出演出来たりすることを、「嬉しいな、不思議だな」と思いながら、実感をしながらも一歩引いて見ている、という感覚はありました。家族が一番嬉しかったんじゃないかな? おじいちゃん、おばあちゃんが、ポスターを部屋に貼っていて、嬉しいけど恥ずかしい、というか(笑)。だから、私よりも周りが喜んでくれていることに対して嬉しかった、というのが大きかったですね。

――2013年には『テラスハウス』に出演されて注目を集め、環境が激変したと思います。当時はどんな想いで過ごしていたんですか?

湘南に住んでいた期間は、実は半年なんですよ。今考えるとすごく短い期間だったんですけど、住んでいた時はものすごく長く感じていました。番組では "卒業" と言ったら、自分で何かを決意して前に進むことを意味しているので、「私は何をもって卒業するんだろう?」とずっと考えていました。自分に起きていることなんですけど、放送を観て、「私ってこういう風に見えるんだ」と気付いたり。その時、初めて「人に見られる」ということをしっかり意識し始めたんです。最初の放送を観ると、私、スッピンにチョンマゲなんですね。今思い出すと、すごく切ないです(笑)。大学を卒業してデビューして、『テラスハウス』に出演するまでの時間はすごくナチュラルに過ごしていたんですよね。曲作り、レコーディング、ライブをすることに夢中で、日々新しいことばかりで……鏡を見ていなかった、というか。求められることに対してやっていく。それしか出来ない状況でした。一緒に住んでいる周りのみんなもそれぞれ自分の夢に向かって走っている中で、「じゃあ、私はどうしたいんだろう?」と、初めて自分と向き合うようになりました。ジャンルは違えど、頑張って努力していく面ではみんな一緒なのに、私はスタート地点でずっとモジモジしているだけでしたから……あの半年間は、7年間の活動の中でも本当に濃い時間だったと思います。

――大きく成長出来る時間だったんでしょうね。

今振り返るとそうですね。あの時は、「あぁ、私には何もないや。無力なんだ」とすごく感じていました。逆にそれを知ることが出来た、というか。デビューしたんだから、私は何かが出来るんだ、と勝手に自信を持っていたけど、それまでどれだけ周りの人に助けてもらっていたかを実感する半年間でした。「じゃあこれからどうしようか?」というのは、自分で考えて行動するしかなかった。(一緒に住んでいるみんなとの)日常会話の中でも「なんて返そう?間違ったらどうしよう?」と考えて不安になる時もありました。いい意味ですごく悩んだ時間でした。

――『テラスハウス』で得たものは、その後の活動にどう影響しましたか?

まず、『テラスハウス』に出演させてもらったことで沢山の方に知ってもらえたことは、本当に大きかったです。ライブに来てくださる方や、声を掛けてくださる方、SNSのフォロワーやメッセージの数の多さというのは、『テラスハウス』に出演していなかったら一生出会えなかったことだと思うんです。そこで生まれた人との繋がりが、今も続いているんですよね。もう卒業して6年経つんですけど、未だに「あ、あの時の!」と声を掛けてもらえるんです。(こちらからは)見えないけどちゃんと見てくれていて、間接的に繋がっている、というのはすごく大事なことだと感じます。あとは、「何が本当に伝えたいことなのか?」を以前より深く考えて言葉を選べるようにもなりました。傍にいる時間が長ければ長いほど、家族の場合はより一層なんですけど、「分かってくれるだろう」という前提で会話をしますよね。私は末っ子で、「みんな、分かるでしょ~?」という意識で話すことが多かったんですけど、(家族ではない)同世代の人達と過ごすことで、「あ、こういう言い方をしたら誤解を生むんだ」と気付かされたり、「この人は何を求めているんだろう? 話を聞いてほしいのかな?」とか、「私のことを知りたいのかな?」と考えたり、そういう気持ちの汲み取りを学べたような気がします。まだまだ私は思いやりが足りないなぁ、とは思うんですけど。

――より踏み込んだ、深いコミュニケーションを求めるようになったんですね。

それでもまだ「壁がある」と言われたことはありますけどね(笑)。人の悩みって大抵がコミュニケーションのことだと思うんです。難しいけど、それでもきちんとぶつかっていくことに意味がある、ということを学びました。言いたいことが言えずにモヤッとしたままだと住み心地も悪いですし。言葉で伝えるのはしんどいけど、そうすることでその先に繋がって、上手くいくことが何度もあったなって。泣きたくないけど、泣いてまで気持ちを伝えるのって、大人になってからだと尚しんどいことですよね。わがままを言うこともそうだし、人によっては同じことでもわがままに捉えられないこともあるし。だから、あまり自分の中で「こうだ」と決め付けちゃいけないんだな、とも気付きました。

――そういった気付きによって、歌いたい歌や活動内容はどう変化しましたか?

『テラスハウス』を卒業する時に書いた「言葉にしたいんだ」は、どうしても伝えたい、という気持ちを込めた曲です。それまでずっと私は抽象的な歌詞を書いていました。普段話す時も、直接的な言葉を使うと爆弾を投げるようなことになってしまうから(笑)、遠回しに探り探り話すタイプだったんですけど、歌詞もそうでした。でも、『テラスハウス』に出演して「はっきり言わないと伝わらないんだ」と気付いてから、歌詞の書き方も変わったんです。以前は、「ありがとう」とか「嬉しい」「笑う」「泣く」という歌詞に対して、「え?! こんな直接的に言わないでしょ? 歌詞なのにどうしてこんなに裸のまま、はっきり言わないといけないんだろう?」「わざわざ説明しなくても、歌なんだし、分かる人が分かればいいや」と思っている部分がありました。でも、一緒に過ごしてきた仲間に対して、「ちゃんと言わなきゃ」という想いから、意識が変わり、具体的な言葉を選ぶようになりました。歌詞の書き方の変化は大きいと思います。あとは、デビュー当時は大きな声で伸びやかに元気よく歌っていたのを、「より感情を出していくにはどうしたらいいんだろう?」とも考えるようになりました。出来るだけ寄り添うように歌いたい、と常に思っているんですね。隣にいる人に身振り手振りを付けて伝えるような、声に表情が欲しいと思って、いろいろ試すようになった時期でもあります。声量はむしろ抑えて、声質やニュアンスを意識して、心の部分でエモーショナルになる、というか。そこは『テラスハウス』を卒業してから更にいろいろと試していきました。

――より繊細な、いろんな心の動きを細かく表現出来るようになった、という感じですかね?

ただ歌うだけじゃつまらないし、伝わらなきゃ意味がないな、と思うようになったんでしょうね。そういう気持ちでライブをして、実際にお客さんに届いた時って、やっぱり表情を見ると分かるんですよ。「あ、やっぱりライブっていいな!」と改めて思う瞬間でした。2016年に、ずっとやりたかった弾き語りでのカフェライブツアーを実現出来て、近い距離感でのライブをそれ以来ずっと続けてきました。大きな会場もいいんですけど、自分の生声も聞こえるような距離感で歌うことに、私はすごく魅力を感じています。心の距離と実際の距離はもちろん違うけど、やっぱり近ければ近いほど「あ、傍にいるな」という感覚が、私にもあるし、観てくれている方にもあると思うんです。私の場合、お客さんだけど同じチーム、みたいなイメージなんです。「一人で行くんですけど、大丈夫ですか?」というメッセージをいただく時があるんですけど、「私がいるじゃないですか! 大丈夫だよ、ようこそ! お茶を飲みに来る気分でどうぞ」という感覚なんですね。リラックスして聴いてほしいから、「ここでタオル回すぞ!」みたいな決めごとも全然ないですし(笑)、なんだったら寝ちゃっても大丈夫。それぐらい居心地のよい空間で私の歌を聴いてほしいなって。それが少しでも日常の中のリラックス出来る時間になったら、お互いいいなと思っています。私は誰かの役に立ちたいし、音楽を聴くのを楽しみに来てくれる方もいれば、「梨奈ちゃん元気かな?」と会いに来てくれる方もいる。お客さんというよりは友達というか、親戚みたいな、 "家族グループ" のような関係性が理想ですね。

――アーティストとして、例えば「憧れられたい」「輝きたい」という方向性もあると思うんですが、それを目指したことはないんですか?

憧れはありますよ。でもたぶん、出来ないんですよね。クールになれなくてふざけちゃう。自分で笑っちゃうと思います(笑)。いつも見てくれている方達は、どれだけアー写がカッコ良くても、「話したらこんなでした」という部分も分かってくれていると思いますし。「こういう住岡梨奈像になろう!」といくら無理にカッコつけても、たぶんはみ出ちゃうと思うんです。それだったら普段の私でどこまで出来るかな?って。『テラスハウス』を観ていた方には、たぶん素の部分もバレていると思うので、そこも含めて付いて来てくれて、聴いてくれる方達を大切にするのが一番かな、という感じです。

――外向きの顔を作ってガードせず、素のままの自分であり続けるのは、怖くないですか?

私の中の "普通" が変わった、というのもあるのかもしれないですよね。私が心を開いてリラックスしていれば、相手もこちらに悪いことをしてこない、というか。最近、イヤホンで音楽を聴きながら満員電車に乗っていたら、向かいに立っていた女性が私のことをじっと睨んできたんですね。私は角に立っていて、その人は手すりに掴まっていて、お互いに座る席はない、という状況で。「どうして私を見ているんだろう?」と考えながら、「壁に寄り掛かりたいのかな?」と思って「こっちに来ますか?」と話し掛けたら、どうやらそうだったみたいで横に移動して来られて。やっぱり、そうやって相手の気持ちになってみて、自分の方から「どうしたの?」というスタンスになれば、相手も「実はね……」と心を開く、というのをその時改めて学んだ気がしました。自分が頑なに閉じていると向こうも閉じたままなので、一生分かり合えずに平行線のままになるのは嫌だなって。もし私が一回開いてみても向こうがパタン!と閉じたら、それはそれで仕方ないけど、「一旦自分から開いてみようかな?」と思うことが多いですね。それで失うものもないですし、傷付かないし。そう思えるようになったのは、20代後半になって、やっとですけどね。

活動休止を決めた理由

――年齢のお話が出ましたが、活動休止に関しても、30歳を迎える前に一度見つめ直すタイミングが訪れた、というのもありますか?

そうですね……私は30代をすごく楽しみにしていて、これを言うと笑われるんですけど、やっと "人間" になれるような気がしているんです(笑)。二十歳で成人はしたけど、いろんな人に助けてもらいながら今までやってきました。そのことに対して感謝の気持ちしかないですし、そうやって7年間続けて来て、「そろそろ自分で立って歩いたら?」と思ったんです。いつも、やりたいことが出来るとカチッ!とスイッチが入ったみたいに動き出すんですね。まずは気持ちが動いて、理由は後から付いてくる。最初の衝動には理由がないんです。でも、「何かやりたい!」と思った時には、間違いなくそれが正解な気がしていて。今までずっと自信がなくて迷いながら生活してきたし、正解なんてないんですけど、「あ、これはこっちだ!」という直感だけはなぜか自分の中で信じているんです。だから、そう感じた時は自分の背中を自分で押してあげよう、と思うんです。「29歳というタイミングだから」じゃなくて、「やりたいことが出来たのが、たまたま29歳だった」というか。もしかしたらもっと早かったかもしれないし、あと2年ぐらいは続けられたのかもしれないけど、「自分が "今だ" って言ってるんだから、今じゃん!」って。そう考えると、昔に比べて自分を信じられるようになったんだなぁと思います。今までは運の方を信じていたんですよね。目の前に新人発掘の人が現れたとか、面接が始まったとか。そういうチャンスが目の前に来た時に掴んで生きてきたけど、今回は、来たものを掴むのとは違うんです。

――もっと主体的な選択、ということですか?

「ギターを弾こう」と思い立った時と同じ感覚かもしれないです。「ピアノはあんなに弾きたくなかったのに、ギターは弾きたいんだ? こんなに練習するんだ? 意外~」と自分に対して思った、あの時のような。「こっちをやりたいな」とボソッと言ったものが不思議と道になっていく、というか。そこははっきりと分かるんですよね。

――今、その新たな夢に向かって踏み出そうとされているんですね。

そうなんです。私は、仕事に関して "人の役に立ちたい" という想いが大きくあって。私が歌って、好きなことをして誰かの役に立てるんだったらこの職業は天職だ、と思って今まで活動してきました。私の声、音楽が求められていて、それが誰かのリラックスに繋がったり、楽しみになったり、寂しさを埋める慰めになったり……そういう力になることをしたかったんです。今度はそれをもっと具体的に、自分の体を実際に動かして、手を、足を使って人に寄り添ってみたい、と思っています。そうしていった先はどうなるんだろう?というのが見てみたくて、「もっと人に近付いてみよう」という想いで新しい道に進もうと決めました。見えない人達と繋がっている喜びはもう十二分に味わうことが出来たし、もちろん今後もそれは大事にしていこうと思っているんですけど、「じゃあ、直接的にあなたは何が出来るんですか?」と自分に問い掛けた時、出てきた答えがそれなんです。歌を歌うこと、ギターを弾くこと、人に寄り添うことを、形を変えてもっともっと詰めていく作業をしたい。人生の中で、もう少しそちらにシフトしていけば、自分をもっと役立てられるんじゃないかと思ったんです。

――では、道は変わるにせよ、人に寄り添うという点では音楽活動と地続きなんですね。音楽が嫌になったとか、悩んで辞めたい、では決してなく。

あぁ、もう全然違います(笑)。歌は好きなのでずっと歌っていきますし、ギターは下手になりたくないから練習し続けます。身に付けてきたスキルを衰えさせたくないし、大人になってから勉強して、自分が「手に入れたい!」と思って手に入れてきたものを手放すつもりは一切ないので。「じゃあ、それをもっと活かすにはどうしていけばいい?」と考えながら生きていったら、もっと楽しいんだろうな、と思っているんです。本当にコツコツやっていく作業なんですよね。苦手だった食べ物を食べられるようになる、みたいなことを人生の中でもどんどん増やしていきたいんです。30歳までにやりたいことは、具体的にはスカイダイビングと、苦手を克服すべくゲームの『バイオハザード』をすること。あとオーロラを観に行くというのもありますけど、恐怖に立ち向かうとか、自分を究めていきたい、というのが自分の中に今すごく強くあります。だから、楽しみなんです。新しい道ではきっと、また新しい発見があるはず。面白いと思うこと、自分がやりたいこと、自分に求められることは、たぶん全部同じ場所にあると思うんですよね。やりたいこと、求められていることに相反することは、今までもこれからもするつもりはないです。そこにいかに応えていくかということと、「私だったらこんなこと出来ます」というアピールをしていきたい、と思っています。

――新しい人生、楽しみですね。

そうなんです! もう今ワクワクしてますね。でも、もちろん寂しさもあります。ファンの方達にも寂しい思いをさせてしまっていることは感じているので、ツアーのタイトルは前向きに『笑顔のために』としました。「私が辞めようが辞めまいが、あなたはちゃんと笑顔でいなきゃダメよ?」と思うのと、「私も笑ってなきゃ」というのと。それは「~しなければいけない」ということではなくて、「出来ればそうしたいでしょ? 最終的にはみんなで同じ気持ちになりたい!」という想いを込めました。だから、活動休止は大きな出来事ではあるけど、終わりではなく新たなスタートなんだ、と思うんです。

ベストアルバムについて

――ベストアルバム『住岡梨奈 2012-2019』は、ファンの方への贈り物になりますね。

7年間の活動を振り返って、ファンの方達のことを考えながら選曲しました。新曲が2曲入っていて、「Charming bird」は、今まではっきり言えなかったことを純粋に書いたもので、「何に対して真っ直ぐいられるか?」ということを歌っています。鼻歌のような感じの曲で、本来、自分の中で音楽ってこうやって出来ていたな、と思うんです。英詞にしたのは、具体的に誰に対してとか何に対してではなくて、「この中から何を読み取るか」を聴いてくださる方に託したくて。

――鳥には、羽ばたいていきたい、という住岡さんの気持ちが託されているのかな?とも思いました。

確かに自分のことは書いていて、でもそれを上手く説明は出来なくて……このまま受け止める人もいるだろうし、自分自身と重ねて聴く人もいるだろうし。日本語では真っ直ぐ言えないことを英語だったら直接的に書けるので、隠していることは一切ないんです。真面目なことを言い出しても途中でごまかしちゃう、みたいな私自身のことも入れているし、最終的に「とにかく、歌を歌ってるんだよ!」という気持ちも入っています。曲の最後に、例えば、訪れたチャンスや、自分がやりたいこと、「一生愛していこう」と思う誰かを見つけた時に、「あなたはどうしますか?」という問い掛けをしているんですが、私自身はいろんな物事に対して不器用だけど一生懸命示していくんだ、その意思を歌でも表したいし、行動でも示していきたいと思っているんです。でも、それを全部説明してしまうとダサい!と私は思ってしまうので(笑)、「恋愛の話なのかな?」とか、いろんな場面に当てはまるような要素も混ぜているので、この曲を聴いて何を思うのか、逆に皆さんに聞きたいですね。

――「fun × fun」では、ストレートに感謝の言葉を述べています。ファンの方へ想いが表れていると感じました。

これは、今まで私の音楽を聴いてくれた方、関わってくれた方達に対して真っ直ぐ書こう、と思って書いた曲です。冒頭でラッキーチューンという造語を使っているんですけど、自分がやりたいこと、信じているものは全て叶う、と私は勝手に思っているんです。だから、星の数だけやりたいことや願いがあっても、やれば出来ることが沢山ある、というところから曲がスタートしています。人との繋がりや、距離や時間、もう二度と会えない人の存在、私はそういう目には見えないものを信じているんです。「自分探しに行く」という人がいますけど、私は「自分はここにいるのに」と思うし、「どこかにいい人いないかな?」という言葉を聞くと、「じゃあ、今傍にいる人はいい人じゃないの?」と思ってしまう。そういう、 "そこに在るのに見えていないもの" に対して意識を向けて、ちゃんと実感していくことが大事なんじゃないかな?と思うんですね。抽象的にはなってしまうんですけど。

――心のありようを歌っているんですね。

うん、今までもずっと心のことを歌ってきていて、「やっぱり、最後は心なんだろうな」と思うんですよ。人間って、実際に何を考えているのか、本当のところは絶対に他人には分からないものだけど、みんなそれを伝えようとしているし、知りたがっていることだから。前に友達から、「悩んでることや考えてることをちゃんとぶつけてくれないと、一緒にいる "今" を過ごせない」と言われたことがあって。それを聞いた時、「あぁ、私は先々のことを考え過ぎていたり、後ろのことばかりを振り返ったりして、 "今" をちゃんと見てなかった、ごめん!」と思ったんですね。だからこそ、「今この瞬間を大事にしていく」ということを歌詞にしました。例えば、昨日すごく不機嫌そうだった人を、今日も「この人は不機嫌だ」とは決めつけないで、「今日のこの人はどんな感じなんだろう? じゃあ明日は?」と毎日、同じ人だけど新しいその人に会っている気分で対応するのを、私は楽しみにしているんです。雨が降っていても、てるてる坊主を作ることで、「てるてる坊主を作って晴れ乞いをする私!」という、楽しみに変えていく。楽しみは作り出せると思っているし、何でも面白がりたいんです。「あなたの喜びが私の喜びになったことで今まで私は歌ってこれた。私はそのことに喜びを感じているけど、あなたはどうですか?」という問いも入れています。たとえ裏切られても人を信じちゃうし、無駄に真面目で無駄に真っ直ぐだけど、それは無駄じゃない!と信じたいところもある。「真面目に生きてればいいことがある」という想いがすごく強いんですね。私が正しいと思うこと、それは理屈じゃなくて、こっちの方がきっと楽しい、嬉しい、と思うことをするのが相手にとっても私にとっても良くて。新しい道に進んでも、このままの私で行こう、という気持ちを込めて書きました。30代は大変だよ?とか、いろいろ言われるけど、やっぱり楽しみだし、向かっていくしかない。「じゃあ、より笑顔で行こう!」という感じです。

――自分を信じて、生き方を肯定する、ということですね。

5、6年前だったら、「綺麗事だな」と思っていただろうけど、今は「自分がそう思うならそうだ」と道を開いていける感覚なんです。聴いてくださる方でもしネガティヴになってしまいがちな人がいたら、「あ、住岡梨奈がこう言ってるなら、こうしてみようかな?」となってくれるきっかけになればいいな、とも思って書きました。

――アルバムを締め括るのは「ナガレボシ Acoustic Version」、初期から歌っていらっしゃる大切な曲ですね。

今までCDにはバンドアレンジで収録していましたが、今回初めて弾き語りで再録をして、しかも一発録りなんです。「聴いてほしい」というよりは、「そっと置いていく」という感覚です。曲順も私が決めたんですけど、「fun × fun」が作品としては最後の曲で、「ナガレボシ」は、何ていうか……今思い浮かんだのは、付箋みたいな感じですね。感謝の言葉を直筆で最後に書き添えた、という感じかな? マイクテストのつもりで歌い始めたら気持ち良くなって、そのまま最後まで歌い続けたら、録音は回していたのでスタッフから拍手が起きて。「え? これで終わり?」とビックリしたんですけど、スタッフを信じよう、と。これはこの形で残しておくべきもの、と思ったので、そのまま入れています。説明は要らないと思うので、是非聴いてください!

ラストツアー『笑顔のために』へ向けて

――最後のツアーが6月、8月に開催されます。意気込みを聞かせてください。

まずは6月に、全国7ヶ所で弾き語りツアーをします。会場はこれまでの弾き語りツアーでお世話になったライブハウスやカフェ、ギャラリースペースの所もあります。より近い距離で、私から皆さんに会いに行く、という気持ちで各地へ行くツアーです。その後、8月にはバンドツアーが始まります。いつものメンバーと旅をすることがすごく楽しみです。音数が増えるので、出来ることも増えますからね。

――これまでと違うアレンジをしてみよう、などというプランはあるんですか?

リハーサルに入ってみてからですかね。大幅にアレンジを変えなくても音源通りには確実にならないので(笑)、ライブならではの音を楽しみにしてもらいたいです。いつもすごいなと思うのは、バンドだと、私の想像を超えて曲が具現化されて、レコーディング以上に何が起こるか分からないし、3回ライブをしたら3回とも同じことが出来ない、ということです。そこを私は楽しんでいます。いつも一緒にやってきたバンドメンバーでお届けするライブでは、私が "フル住岡" なんですね。

―― "フル住岡" というのは、自分自身の素が丸ごと出る、という意味ですか?

たぶん、弾き語りだと「一人で全部しっかりやらなきゃ!」という緊張感があるんですけど、バンドメンバーといるといい意味で緩いというか(笑)、カッコつけられないんです。バンドでは「ここは任せた!」という部分が出来るから、私の自由度が高くなるんでしょうね。メンバーを見ながら気付いたら笑っている、みたいなこともありますし。「音楽ってそもそもこういうものだよね?」ということをステージ上で出来てしまって、それがお仕事になっているのがもう、面白くて。だって、5人が1人ずつ音を鳴らしているのに、それが全部重なって音楽になるなんて、楽しくて未だにニヤッとしちゃう。カウントが入ってバン!と全員で入った瞬間も好きだし、「音がいっぱいで楽しい!」という、小学生みたいな感想だなと自分でも思うんですけど(笑)、それこそが純粋にバンドサウンドなのかな?って思います。私が信じているミュージシャン達と一緒に、私が信じている音楽を、私が信じているお客さん達がいる空間で鳴らす、というのがすごく楽しみです。もちろん、弾き語りも自由にやっているし、どちらも心は大事にしているんですけど、弾き語りは心と言葉に集中していて、バンドは耳というか、音と心に集中しているのかな? そういう感覚的な違いはあります。どちらのツアーもファイナルは地元・札幌なので、身が引き締まります。活動休止を決断してから、皆さんに感謝を届けに行くのは、もうこの機会しか私にはないから、その時間を同じ気持ちで共有出来たら、と思います。『笑顔のために』と自分で言ったからには、みんながそういう気持ちになれるような選曲をしていきたいですし、「泣くな」と言っても泣くだろうから、そこはもう身を任せていこうかな、と。

――ライブは楽しみですが、その日が来るのは寂しいという、複雑な気持ちです。

私、気付くのがいつも遅いんですよね。『テラスハウス』の時も卒業する前日になって大泣きしましたからね。今回もライブ当日になって、たぶんラスト1曲とかになったら「はっ……!」となるかもしれません(笑)。何が起こるか分からないですよ。結局寂しくなるんでしょうけど、今は楽しみです。

(取材・文/大前多恵)

ALBUM

デビューから7年間の活動の集大成となるベストアルバム。

キューンソニー時代から徳間ジャパン時代までの全楽曲から住岡梨奈自身が選曲。

現在の心境を綴った新曲も2曲収録した全13曲収録。

アルバム

2019.6.5 Release

Best album
「住岡梨奈 2012-2019」

TKCA-74795 ¥2,778+税

1 feel you

アニメ映画『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 新京都編 後編 光の囀』のエンディングテーマになった曲で、私のメジャーデビューシングルです。JUDY AND MARYの「そばかす」(テレビアニメ『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』オープニングテーマ)が大好きだったので、同じアニメの曲になると聞いてすごく嬉しかったです。当時、自動車の教習所に通っていて、休憩時間中に「タイアップが決まりました!」と電話が掛かってきたのを覚えています。今とは歌い方がかなり違っていて、これはこれで懐かしいですね。プロデュースと編曲をしていただいた斎藤有太さんには今でもお世話になっていて、ご一緒した最初の曲としても思い入れが強いです。

2 Heartbeat

「今までになかった曲だぞ!」という挑戦作だったので選びました。デモを提出した時、短めのサビしか送らなかったのにスタッフからの反応がすごく良かった曲です。この時期は打ち込みが面白くて、パソコンを使ってDTMでの作曲をし始めた頃でした。ギターを使わずに作ったので、弾き語りで再現するのは大変でしたけど(笑)。このビートを刻むならあの人だ!とフジファブリックの金澤ダイスケさんに編曲をお願いして、いろいろと相談しながら試行錯誤して作りました。金澤さんにはプロデュースもしていただいて、カッコいいサウンドになったな、と思っています。

3 プレゼント

普段の生活の中で、例えば人との出会いもプレゼントだし、浮かんでくるメロディーも「与えられているんだな」とすごく感じて生活していた時に書いた曲です。「ありがたいな」「恵まれているな」と思いながら書いたので、私の中ですごく幸せな曲なんです。幸せをみんなに届けたいと思って選びました。歌詞に出て来る白いバラの花言葉は、深い尊敬。何かにつまずいてしまっても、誇りを持って、自尊心を大事にしていこう、と思いながら動いていた時期に書いたでもあります。

4 Hello Yellow!

高橋久美子さんに作詞していただいた曲です。書いていただく前にいろいろとお話をさせてもらったんですけど、歌詞にあるように、私って「絶対こぼさないように!」と言われると絶対にこぼすんですね(笑)。テーブルの角に小指をぶつけるって歌詞もあるんですけど、歌詞を受け取る前日に本当に小指をぶつけていて……そんな奇跡が入っています(笑)。久美子さんも私も地方から東京に出て来ていたので、「上京して、こんな感じよね。でも頑張りたいよね!」という気持ちを入れていこうとお話をして、書いていただきました。久美子さんの書く言葉に私も元気を貰うし、「この曲を聴いていつも学校へ行ってます」というメッセージを貰ったりした曲です。元気ソングとして入れました。

5 We Are Never Ever Getting Back Together

『テラスハウス』のオープニングテーマだった、テイラー・スウィフトの曲のカヴァーです。『テラスハウス』に出演したことはやはり私にとって大きな出来事で、「あの頃を思い出す曲って何だろう?」と考えた時、この曲はやはり入れておこう、と思って選びました。今となっては英語の発音が不安なんですけど(笑)。この曲をきっかけに私の音楽を聴いてくれた方も沢山いると思うので、大事な曲ですね。この曲を聴いて「あ!『テラスハウス』」となるって、すごいことだなと思うんですよ。是非、当時を思い出していただけたら、と思います。

6 君は五番目の季節

大好きな森山直太朗さんの曲をカヴァーさせていただいた、思い入れの強い1曲です。カヴァー曲を歌う時にすごく大事にしているのは、どんな気持ちでこの曲を書いたんだろう?と考えて、自分の曲として向き合ってみる、ということ。 "何故に世界は こんなにも麗らかで悲しいんだろう" という、2番のAメロの歌詞が一番好きです。亡くなったご友人に向けて書かれた曲ということも踏まえて、「季節が巡るってどんな気持ちなんだろう?」と考えたし、もう会えない人や変わっていくものに対しての捉え方、物の見方がすごく美しいな、と思いました。これは日本の名曲です! 原曲もぜひ聴いていただきたいです。

7 Daughter

父が北海道から東京の私の家に泊まりに来たのをきっかけに書いた曲です。いつもは母と一緒に泊まりに来るんですけど、東京マラソンに初めて当たったから出場するんだ!と、初めて父だけで来たんですね。娘と父親が隣りで寝ることもあまりないし、1対1で話すのも久々だなぁと。「親ってどういうふうに子どもを見ているんだろう?」とか、「私が親になった時、子どものことをどう見るんだろう?」という目線で書いています。この曲を両親に向けて入れておきたかったのもありますし、親子関係を改めて見つめ直して、日常を愛おしむきっかけになったらいいな、と思います。

8 Charming bird

今回書き下ろした2曲の新曲のうちの1曲です。約2分半の短い曲です。英語で歌詞を書いていて、日本語訳はあえて歌詞カードに載せないことにしました。英語っていろんな意味に捉えることが出来る気がして、you は "あなた" に限らず何か別のものにもなるし、鳥(bird)が出て来るけど、それは鳥だけの意味ではなかったり。何を表しているのか、想像力を働かせて聴いてもらえたらいいな、と思っています。鳥は人にも譬えられるし、目の前に飛んできたチャンスという考え方も出来る。つじつまが合わないことになりかねないけど、これはこれとして出したかったんです。最後に収録した「ナガレボシ」も、「好きな人のことを想って書いたんでしょ?」と恋愛ソングとして聴かれることが多いんですけど、「聴く人によって違うだろうから、どう聴くかはお任せします」と思っていて、この曲もそんな気持ちで書いています。

9 言葉にしたいんだ Piano Version

『テラスハウス』を卒業する時に、自分の気持ちを伝えるために作った曲です。『テラスハウス』に出演するまでは、「そんなことわざわざ言わなくても」「歌なんだし、分かる人が分かればいいや」と思っている部分があったんですけど、一緒に過ごしてきた仲間に対して「ちゃんと言わなきゃ」という気持ちから言葉選びが始まって、歌詞の書き方がこの曲を機に大きく変わりました。みんなとの共通の景色だった海や、部屋に飾ってあった写真立てという具体的なものを挙げて歌詞を書いていますね。今回はピアノヴァージョンを収録しています。

10 あまのがわ

映画『あまのがわ』の主題歌で、Carlos K.さんと一緒に編曲をして、打ち込みで作り込む作業を最大限にやってみた曲です。また、私の中で「声ってもっと使える!」と思った曲でもあって、サビでは二声で一つになるように歌う、という挑戦もしました。シンガーソングライターというよりは、ちょっと恥ずかしいですけど、音楽家っぽいことが出来たんじゃないかな?という1曲です。また、映画に初めて役者として出演させていただきました。セリフが覚えられませんでしたね(笑)。主題歌を担当させていただいて、出演もして、本当に贅沢だなぁと思います。でも、「やっぱり自分は歌う方なんだ」と思いました(笑)。

11 やさしくなれたら

CMソングとして書き下ろした曲ですが、いつも悩んでいる私の友人に向けたメッセージが強く込められています。ファンの方達から「この曲を聴くと元気が出る」という声を多く貰ったし、「聴きたい」と言ってくださる曲で、だからこそライブでも「届けたい」と思う曲になりました。友達に向けて書いた近い距離感の曲ですが、応援してくださる方達に対して、「もっと優しさを示せないかな?」と考えた時、「この曲を歌うことで届けられるんじゃないか?」と思ったんですね。私にとって特別な人は、あなたでもあるし、あなたでもありますよって。応援して聴いてくださる方達に向けて届けたくて選びました。

12 fun × fun

もう1曲の新曲です。誰かの喜びを自分の喜びのように感じられるってすごいことだな、と思っていて。 "僕の喜びは誰かの喜びになっていた? だとしたら素敵だな" と歌詞に書いているんですけど、それはたぶん幸せの一つの形ですよね。私が正しいと思うこと、理屈ではなく「こっちの方がきっと楽しい」「嬉しい」「好い」と思うことをするのが、誰かにとっても私にとっても良くて、win-winになる。それを綺麗事だと思わずに信じたいんです。ふいに辛くなる日とか、ありますよね? でも、「あ、だから傷付いてたんだな」とその原因を見つけて腑に落ちた時、「信じることが出来ていたから、私は傷付いたんだ」と気付くと思うんです。「傷付きたくないから信じない」じゃなくて、「信じていられるんだったら、傷付いてもいいや」「ちょっと怖いけど、信じる方の力を信じたい」という気持ちを詰め込んでいます。

13 ナガレボシ Acoustic Version

デビュー前から歌い続けている曲です。今までCDにはバンドアレンジで収録していましたが、今回は今までと違うものを入れたかったので、弾き語りで再録しました。ライブでは演奏していましたが、弾き語りで音源になるのは初めてで、しかも一発録りです。この曲を歌っているYouTube動画をきっかけに私を知ってくれた方もいて、本当にすごく沢山の方が聴いてくれている曲です。みんながどんな気持ちで聴いてくれているのか、直接は聞けないですけど、「大切にしてくれているんだな」と感じられて……私が大切にしている曲を誰かが大切にしてくれているなんて、奇跡じゃないかな?と思うんですよね。

(取材・文/大前多恵)

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